前立腺癌は去勢手術しなかったから?

前立腺癌は去勢手術しなかったから?

愛犬がシニア期を迎えたとき、「最近、おしっこが出にくそう」「頻繁にトイレに行くのに、少しずつしか出ない」といった症状が見られることがあります。これらの症状の背後には、前立腺の異常が隠れているかもしれません。

前立腺の病気の中でも、**前立腺癌(前立腺腺癌)**は進行が早く、治療が難しい病気のひとつです。今回は、前立腺癌の原因や症状、治療法について詳しく解説していきます。


1. 【前立腺癌とは?】

前立腺癌は、前立腺の細胞が異常増殖することで発生する悪性腫瘍です。犬では比較的まれな病気ですが、一度発症すると進行が早く、他の臓器への転移リスクが高いのが特徴です。

猫ではほとんど見られませんが、犬では特に高齢の未去勢のオスで発症しやすいとされています。


2. 【前立腺癌の原因】

前立腺癌のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。

加齢

前立腺癌は、8歳以上のシニア犬に多く発症します。年齢とともに細胞の異常が起こりやすくなるため、腫瘍のリスクが高まります。

ホルモンの影響(去勢手術との関係)

「去勢手術をしていなかったから前立腺癌になったの?」と疑問に思う飼い主さんも多いですが、実は前立腺癌と去勢手術の関係は明確ではありません

むしろ、去勢済みの犬でも発症するケースが多いことが報告されています。去勢手術をしていない犬では、前立腺肥大(良性の病気)が起こりやすくなりますが、これが直接前立腺癌につながるとは限りません。

遺伝的要因

一部の犬種では、前立腺疾患のリスクが高いとされています。特に、**大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ジャーマン・シェパードなど)**では、前立腺の病気が発症しやすい傾向があります。

環境要因・食事

化学物質への曝露や食事の影響も考えられていますが、明確な因果関係はまだ研究中です。


3. 【前立腺癌の症状】

前立腺癌の初期症状は分かりにくいため、病気が進行してから気づくことが多いです。

主な症状

排尿トラブル(頻尿、血尿、尿が出にくい)
排便トラブル(便秘、細い便が出る)
歩き方がおかしい(後ろ足のふらつき)
元気がなくなる、食欲低下
体重減少

腫瘍が大きくなると、前立腺が肥大して尿道や直腸を圧迫し、排尿・排便の障害が起こります。また、進行すると骨(特に腰や背骨)に転移し、歩行困難や痛みが出ることもあります。


4. 【前立腺癌の診断方法】

前立腺癌が疑われる場合、以下の検査を行います。

触診

肛門から指を入れて前立腺の大きさや硬さを確認します。腫瘍がある場合、前立腺が硬く不規則な形状になっていることが多いです。

レントゲン検査

骨盤や背骨に転移がないかを確認します。前立腺癌は骨転移しやすいため、レントゲンは重要な検査です。

超音波検査

前立腺の形状や腫瘍の有無をチェックします。超音波検査では、前立腺の肥大や腫瘍の位置が分かります。

尿検査

前立腺癌の影響で尿に異常が出ることがあるため、尿検査も行います。


5. 【前立腺癌の治療方法】

前立腺癌は進行が早く、手術で完全に摘出するのが難しい病気です。そのため、治療は症状の緩和を目的とした対症療法が中心になります。

外科手術(前立腺摘出)

前立腺の全摘出手術は可能ですが、尿道を損傷するリスクが高く、多くの犬で尿失禁が起こるため、一般的には推奨されません。

放射線治療

前立腺癌に対して放射線治療を行うこともあります。腫瘍の成長を遅らせ、痛みを軽減する効果が期待できます。

薬物療法

NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)

  • 炎症を抑えて、腫瘍の進行を遅らせる効果があるとされています。
  • 一部の犬では、NSAIDsを継続使用することで生存期間が延びることが報告されています。

化学療法(抗がん剤)

  • 抗がん剤を用いた治療もありますが、犬の前立腺癌に対する有効性は限定的です。

6. 【前立腺癌を予防するには?】

前立腺癌の発症を完全に防ぐ方法は確立されていませんが、以下のポイントが予防につながる可能性があります。

定期的な健康診断(年1~2回の検診)
排尿・排便の異常がないかチェックする
バランスの良い食事と適度な運動
去勢手術は前立腺肥大の予防にはなるが、前立腺癌を防ぐとは限らない


【まとめ】

前立腺癌は、特にシニア犬に多い病気で、進行が早いのが特徴です。去勢手術の有無に関わらず発症するため、早期発見が重要になります。

「最近、排尿の様子がおかしい」と感じたら、できるだけ早く動物病院で検査を受けることをおすすめします。大切な愛犬が健康で長生きできるよう、日頃から注意深く観察してあげましょう。

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