動物病院コラム:悪性かどうか分からないのに針生検は正しいのか?

動物病院コラム:悪性かどうか分からないのに針生検は正しいのか?

ペットの健康を守るために、飼い主さんが気にかけるべきことの一つに「腫瘍」があります。動物の体にしこりができたとき、それが良性なのか悪性なのかを判断するために、獣医師はさまざまな検査を行います。その中でも「針生検(FNA:細胞診)」は、比較的簡便で一般的な検査方法です。しかし、「悪性かどうか分からないのに針生検をするのは正しいのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。本記事では、針生検の役割や限界、考慮すべきポイントについて解説します。


針生検(細胞診)とは?

針生検(細胞診)とは、細い針を腫瘍やしこりに刺して細胞を採取し、その細胞を顕微鏡で観察する検査方法です。人間の医療でも用いられる一般的な診断技術で、動物医療でも広く活用されています。

針生検の特徴

  • 低侵襲:メスを入れることなく、短時間で済む
  • 麻酔不要:多くの場合、動物を抑えるだけで実施可能
  • 迅速な結果:数日以内に結果が分かることが多い
  • コストが比較的低い

このように、針生検は手軽で動物への負担が少ないため、初期診断の選択肢として有効です。


針生検のメリットと限界

針生検のメリット

  1. スクリーニングとして有効
    • 腫瘍が良性か悪性かの判断材料になる。
    • 腫瘍ではなく炎症や感染によるしこりである可能性も検討できる。
  2. 外科的生検よりも低リスク
    • 外科的生検(組織生検)は全身麻酔が必要なこともあり、動物への負担が大きい。
  3. 治療方針を決める参考になる
    • 針生検の結果によって、経過観察で良いのか、さらなる検査が必要なのかを判断しやすくなる。

針生検の限界

  1. 細胞の一部しか取れない
    • 針生検では、腫瘍全体の構造は分からず、部位によっては正確な診断が難しい。
  2. 悪性でも「偽陰性」になることがある
    • 腫瘍の種類によっては、悪性細胞が少なく検出できないこともある。
  3. 組織の構造は分からない
    • 針生検は細胞レベルの診断なので、腫瘍の広がりや浸潤の程度までは判断できない。

針生検をすべきかどうかの判断基準

針生検をするべきかどうかは、以下のような点を総合的に考えて決定します。

1. 腫瘍の大きさ・部位

  • 触診で明らかに脂肪腫(良性の脂肪の塊)のようなものであれば、すぐに針生検をせずに経過観察を選択することもあります。
  • 逆に、急速に大きくなる腫瘍や硬いしこりは、早期の診断が重要です。

2. 動物の年齢や健康状態

  • 高齢の動物では悪性腫瘍のリスクが高いため、針生検を実施するケースが多いです。
  • ただし、重度の持病がある場合は、侵襲のある検査自体を避ける判断もあり得ます。

3. 飼い主の意向

  • 診断の確定を急ぐか、リスクを減らしたいかによっても異なります。
  • 例えば、悪性だった場合に積極的な治療を希望しない場合、必ずしも針生検をしない選択もあります。

針生検後の選択肢

針生検の結果によって、以下のような選択肢が考えられます。

  1. 良性の可能性が高い → 経過観察(定期的な触診や画像検査)
  2. 悪性の可能性が高い → 追加検査(組織生検、CT、MRIなど)
  3. 診断が不確定 → 再度針生検を行う、または組織生検を検討

診断がつかなかった場合、より精度の高い組織生検(全身麻酔下での細胞採取)や、手術による病理検査が必要になることもあります。


まとめ

針生検は、動物の腫瘍診断において負担が少なく有用な検査ですが、万能ではありません。良性・悪性の判断を100%正確に行うことは難しく、追加検査が必要になるケースもあります。

飼い主として大切なのは、

  • 針生検のメリット・デメリットを理解すること
  • 愛犬・愛猫の年齢や体調を考慮すること
  • 獣医師と十分に相談し、納得できる選択をすること

腫瘍が見つかった際は、不安に思うのは当然ですが、適切な診断と治療を受けることで、ペットにとって最良のケアを選ぶことができます。獣医師としっかり話し合い、愛する家族である動物の健康を守っていきましょう。

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